刑事裁判において自白調書の任意性が争われることがあります。
これは,逮捕された人が警察や検察の取調べを受けて作成された供述調書について,任意の供述ではない,という主張をしていることを意味します。
我が国の取調べでは,警察官や検察官が,被疑者を取調べますが,時に「認めないと重くなるぞ」「争っていると家族も逮捕しないといけなくなるぞ」などと脅したり,「認めれば保釈が認められる」などと利益誘導したりすることがあります。
そうすると被疑者としては,本当は事実ではないのに,警察官や検察官の意向に沿うような供述調書の作成に応じてしまうことがあります。
そのような供述調書は,被疑者が自発的に(任意に)供述したものとは言えないため,刑事裁判で証拠とすることができません。
このような自白調書(罪を認める内容の調書)は,長らく刑事裁判で重要視され,過去には,真犯人でないのに死刑になるような罪を自白させられたようなえん罪事件も起きています。
刑事訴訟法では,次の様に定められています。
第319条1項
強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
このような不当な取調べを防ぐために,数年前から取調べの録画録音がはじまり,法律によって,制度化されました(施行は2020年です)。
しかし,録画録音が法制化されたのは裁判員事件と特捜事件のみで,大多数の刑事事件は録画録音が保障されていません。
密室の中で行われる取調べでは,まだまだ違法不当な取調べが行われています。
全過程の録画録音がされている事件は,自白調書の任意性の争いが激減しました。
取調べを録画録音することを,全ての刑事事件を対象としなければ,えん罪をなくすことはできません。