刑事裁判の法廷で証人尋問が行われる場合,証人による証言は被告人の目の前で行われます。被告人は自身の事件の証拠になる証言をする証人の様子を,自分の目で観察することができるのが原則です。弁護人も同様です。
証人や事件の性質によっては,証人が被告人の面前において供述した場合に圧迫を受け,精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって,相当と認めるときに,遮へいの措置をとることができるとされています(刑事訴訟法第157条の5第1項)。多くの場合は,人の背丈よりも高い2m超の衝立を立てて証言台を覆い,被告人席から証人の姿が見えないようにします。証人が法廷に出入りする際には,やはり人の背丈よりも高いアコーディオンカーテンを用いて,被告人席から見えないようにするか,証人を入退廷させたあとに被告人が入退廷します。
この遮へいの措置は,特に性犯罪の被害者など,証言することにより強い精神的負担が生じ,平穏に証言することが困難である場合等を想定したものです。近時は,性犯罪でない事件の被害者や,共犯者が証言する際にも,極めて安易に認められる傾向にあります。
被告人にとって,自分の人生を左右する証言をする者の様子を観察できるのは当然の権利です。弁護人は,必要性がないと考えた場合は,遮へいの措置の申し出に対し,毅然とした反対意見を述べる必要があります。
なお,上記遮へい措置が講じられても,弁護人と証人との間が遮へいされることはありません。どのような場合でも弁護人は証言する証人の様子を観察することが許されます。これは,弁護人が反対尋問を行う前提として,証言の様子を観察することが絶対に必要だからです。音声情報のみ,つまり声だけ聞こえればよい,ということではありません。このような尋問の在り方を,法律が当然に想定しているのです。