裁判は証拠に基づいて行われます。証拠によって証明されなければ、有罪にすることはできません。ただ、ここでいう「証拠」とは、一般によくいわれる「物的証拠」に限られません。人の話も立派な証拠になります。「あの人が殴っているのを見た」という目撃証言は、その代表的なものです。
では、こういう証言があるとすぐに犯人と認められてしまうのか。そんなことはありません。物的証拠と違って、証人は見間違えをすることもあります。思い違いをすることもあります。あるいは堂々と嘘をつく証人だっています。証人の話していることが本当かどうかを、私たち法律家は、「証言の信用性」と呼んだりします。
証人の話が本当かどうかを見極めるには、見間違えをするような状況がないか、嘘をつく理由がないか、慎重に吟味する必要があります。そのために重要なのが、弁護人や検察官による尋問です。証人の証言が信用できると主張する側は信用できることを示す事実を、証人の証言が信用できないと主張する側は信用できないことを示す事実を、それぞれ的確に尋問しなければなりません。それには、一定の技術が必要となります。
一般の方々も、もし裁判員に選ばれたら法廷で証人の話を聞くことになります。そのときにはその証人の話をうのみにするのではなく、証言が信用できるかどうかをきちんと吟味しなければいけません。