メールやライン,メッセージアプリのやり取りが全くない刑事事件は,今ではほとんどないと言っていいかもしれません。多くの事件では,このような文字でのやり取りが,事件当時の事情や,被告人の心境などをうかがわせる事情として,重要な証拠となります。被告人が外国人の場合であっても,それは変わりません。ウィチャットやワッツアップなど,日本ではあまり馴染みがありませんが,世界的に広く使われているメッセージアプリのやり取りについて,多数の証拠が裁判に顕出されます。もちろんそのやり取りは,外国語でなされています。
ここで注意しなければならないのは,捜査機関によりなされた翻訳を,鵜呑みにしてはいけないということです。メッセージのやり取りを,捜査機関も通訳に委託して翻訳しますが,時として明らかな誤訳があります。誤訳とは言えないまでも,微妙なニュアンスの言葉について,捜査機関のストーリーになるべく沿うような形で翻訳がされていることはよくあります。メッセージアプリでのやり取りは,かなりくだけた表現になることも多く,それだけ翻訳が難しいということが指摘できます。
このような事案では,必ずメッセージの原文を,被疑者被告人に直接確認し,解説してもらう必要があります。そのうえで,弁護人が独自に通訳人に依頼し,翻訳をやり直してもらう,あるいは捜査機関の翻訳の問題性について指摘してもらうべきです。捜査機関の翻訳を鵜呑みにして,翻訳の正確性を慎重に吟味しないことは,証拠の読み違いや,重要な事実の見落としに直結します。
東京ディフェンダー法律事務所では,通訳人と協力しながら,多数の外国人事件にも取り組んでいます。