五輪エンブレム問題と刑事裁判

エンブレム問題

佐野研二郎氏が考案したとされる東京オリンピックのエンブレムの使用中止が決まり、話題になりました。

世間では、当該エンブレムが盗作なのではないかと騒がれています。
インターネット上などでは、過去に佐野氏がほかにも盗作をした作品があるのではないかということが指摘され、佐野氏も、過去作品の作成に際して他のデザインを借用したことを一部認めていると報道されています。
佐野氏は、東京オリンピックエンブレムについては盗用を一切否定しています。しかし世間では、佐野氏が過去にもたくさんの作品でデザインの盗用を行ったのではないかということから、東京オリンピックエンブレムについても盗用だと疑う世論が多くみられるところです。

刑事裁判だったら

さて、刑事裁判だったらどうでしょうか。

たとえば、放火事件で、疑われた人が「私は犯人ではない」と主張しているとします。
その人に、放火の前科があるとしましょう。「前科があるから、彼は犯人だろう」と推測することは許されるでしょうか。

刑事裁判では、そのような推測は許されないというのが答えです。

例外がないわけではありませんが、基本的に、前科があることから犯人であることを推測することは許されない、とする最高裁判所の確立された判断があるのです。
前科があるから犯人だろう、という推測は、結局のところ「過去に悪いことをしたやつだから、今回もまたやったに違いない」という、前科のある方への偏見にほかなりません。そして、偏見に基づいて、決めつけをしてしまうことになります。
このような推測に基づく決めつけを許してしまえば、本当はその人が今回の事件の犯人ではなく、その証拠も薄いのに、無実の者を処罰してしまう危険が高くなってしまうのです。
無実の者が処罰されてしまうことはとても大きな不正義です。だから、最高裁判所も、不当な偏見に基づく決めつけを禁じていると考えられます。

刑事裁判では、時に、検察官から、ここまで書いてきたような不当な推測に基づく立証が行われようとすることがあります。
私たち弁護人は、そのような不当な推測に基づく立証に断固抗議し、無実を訴える依頼人が間違っても処罰されることの無いよう、全力を尽くします。

佐野氏が東京オリンピックエンブレムの作成にあたり盗作をしたかどうかについて、刑事裁判のルールが適用されるわけではもちろんありませんが、過去の事実だけに基づくのではなく、慎重な判断をしたいものですね。

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