黙秘権はなぜあるのか 公判編

 このコラムでも、黙秘権はたびたび取り上げてきました。それは、主に取調べでの黙秘権について取り上げるものでした。今回は、裁判における黙秘権についてお話しします。

 裁判においても、被告人には黙秘権があります。裁判の間、ずっと黙っていてもいいし、個々の質問に対して黙秘権を行使することもできます。黙秘権を行使したことによって、被告人が不利益に扱われることはありません。これは、純然たる法律のルールであり、裁判官裁判においても裁判員裁判においても、等しく守られなければなりません。
 しかし、ここでなぜそれが正しいルールなのか、疑問を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。被告人は、自分の裁判なのだから自分でしっかり説明すべきだと思う方もいらっしゃるかもしれません。
 ですが想像してみてください。無実の罪で裁判にかけられてしまった人が、裁判官から「やってないことを説明しろ、やってないことを証明しろ」といわれても困ってしまいます。犯罪が起きた日というのは、本当にやっていない人にとっては何でもない一日だったりします。やってないことの説明は簡単ではありません。やってないことの証明は、「悪魔の証明」です。これも簡単ではありません。万が一疑いをかけられたときにそんなことが要求される世の中では、安心して暮らすことはできません。
 そこで、刑事裁判では検察官に被告人の有罪を証明する責任があるというルールがあります。ですから、検察官が証拠を提出して証明を試みるとき、被告人は自ら話して説明を試みてもよいのですが、しなくてもよいのです。黙秘権がなければ、このような刑事裁判のルールの意味がなくなってしまうのです。
 アメリカでは、被告人が法廷で話をしないことがむしろ原則と考えられているようです(一方、自ら証人となって積極的に話すことはできます)。検察官に証明責任があるというルールのもとでは、むしろそれが自然とも考えられるのかもしれません。

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