捜査段階の取調べで,黙秘権を行使する―取調官からの質問に答えない,ということは,被疑者の当然の権利です。そして,黙秘が権利である以上,黙秘権を行使したことを不利益に扱うことは許されないと解されています。例えば「黙秘するというからには,何かやましいことがあるのだろう」と判断することはできません。「黙秘しているということは反省していないということだから,罪を重くするべきだ」と評価することも,許されないことになります。
黙秘権を行使するようアドバイスする弁護人は最近増えてきました。そのためかもしれませんが,検察官が,公判で被告人に対し,殊更に捜査段階で黙秘した事実を強調する尋問をしたり,捜査段階で黙秘していた理由を尋ねる尋問を繰り返すことがしばしばあります。捜査段階では黙秘していたが,公判では供述することにした,というような事案の場合には特に多いようです。
上記のような検察官の質問は,黙秘していたという事実を,それ自体被告人に不利なものとして印象付けようとするものであり,実質的に黙秘権を侵害するものです。特に黙秘の理由を殊更に尋ねることは,それによって「取調べの際には何かを隠そうとした」「取調べの際には正直に話そうとしなかった」という印象・評価を裁判官に植え付けようとする以外の目的が考えられない尋問ですから,非常に問題があります。
このような尋問に対し,多くの裁判官は尋問を制限します。しかし残念ながら一部の裁判官は,漫然と検察官の質問を許します。弁護人としては,冷静に,かつ毅然として異議を述べ,裁判官の不当な判断にも異議を申し立てることで,被疑者被告人が適切に権利を行使することが妨げられないようにしなければなりません。