持続化給付金詐欺の捜査弁護

新型コロナ禍において、持続化給付金詐欺が、急速に増えています。ニュースで目に触れる機会も多くなりました。持続化給付金詐欺に関わってしまった人も、数多くいることが予想されます。

今回は、弊所の弁護士が担当した、持続化給付金詐欺事件の不起訴(裁判にしないという判断)事案を踏まえて、どのような弁護活動が考えられるか、話したいと思います。

 

持続化給付金詐欺では見通しを立てるのが難しい

弁護活動の基本には、「事件の見通し」が重要になってきます。

不起訴の可能性がどれくらいあるのか、裁判になったら刑はどれくらいか、執行猶予はつくのか。こういった事件の帰結を予測することは、依頼者にとって何が1番良い選択かの判断の軸にもなります。

 

しかし、持続化給付金制度は、そもそも新型コロナ禍において事業難に陥っている事業者に対して、簡易で迅速な支援をする目的で作られました。その簡易申込みの影響として、給付要件を満たさないにもかかわらず、給付金の申込みを行い、給付金を受け取る、持続化給付金詐欺が発生し始めました。

このように、持続化給付金詐欺自体が、ここ1年という短期で新たに現れた類型です。そのため、事例の積み重ねがほとんどありません。

一般の事件であれば、過去の事例をもとにして、不起訴の可能性や、どれくらいの刑になるか、見通しを立てていくことが可能です。ですが、持続化給付金詐欺の場合には、過去の事例を参考にできないため、見通しを立てることはとても難しいです。

 

そこで、持続化給付金詐欺の弁護活動では、詐欺一般における視点も重要になってきます。

 

詐欺事件では被害回復が重要

 

一般的に、詐欺事件では、被害回復が不起訴や量刑にとって重要なポイントになります。

人をだました結果、人に財産的な損害を生じさせた場合に、詐欺罪に問われます。

この時、どれくらいの損害を負わせたのかが、事件の帰結を決めるうえで重要な要素になります。これは、もともとどれくらいの損害を負わせたのかだけでなく、事件が起きた後に損害が回復したことで実際の損害が少なくなったのか、も判断材料になります。

 

そこで、詐欺事件では、弁護活動として、生まれた損害を事後的に回復できる方法を探します。

一般に、示談や、被害弁償という方法がとられます。依頼者と相談して、被害を受けた方に対して、お金を支払うことで、被害を回復することができます。

このように、損害を事後的に回復する手段を考えることは、持続化給付金詐欺でも変わりません。

 

持続化給付金詐欺の場合も損害を回復する方法

 

持続化給付金の場合も、給付金の返還として、被害弁償を試みることができます。

給付金の返還先は、下記のホームページ記載の持続化給付金事務局になります。

持続化給付金の返還について (METI/経済産業省)

 

弁護人としては、返還するときに2つ気を付ける必要があると考えています。

 

1つ目は、申請情報の確認です。

持続化給付金の返還は、コールセンターに電話をかけて、電話口で申請情報を伝えて、給付金返還の申込みをします。そのため、申請時の情報が必要になります。

ですが、申請情報が、依頼者自身の情報かは、事案によって異なります。持続化給付金詐欺を1人で行った場合には、依頼者自身の情報が使用されたと言えるでしょう。しかし、共犯者がいる場合には、依頼者の情報ではなく、共犯者の情報が使用された場合も考えられます。

その他にも、申請時の情報を覚えていないも考えられます。

このような場合には、検察官に連絡して、被害弁償のために申請情報を教えてもらうことも有効です。

 

2つ目は、返還のための資金を準備することです。

持続化給付金の返還は、全額を一括で返済すること以外は受け付けていません。そのため、共犯者がいて、依頼者としては報酬を一部しかもらっていないというときにも、被害弁償するのであれば、全額を一括で返済することが必要になります。

 

この場合、①共犯者と共に全額を用意して、全員で返還する方法、②依頼者のみで全額を用意して返還する方法、③依頼者が受け取った報酬分のみを依頼者が用意して弁護人が預かり、報酬分の返還は可能だが受け付けてもらえないために返還できないことを証拠化する方法、の3つが考えられます。

①は、被害回復の効果がある上に、依頼者の経済的負担が少ないため、最も望ましいと言えます。ですが、給付金詐欺に関わっている共犯者の中には、1件だけでなく複数の給付金詐欺に関わっている人物も存在します。この場合には、かかる共犯者の協力を得られるかどうかは、ケースバイケースです。(全件で被害弁償するお金はない、という共犯者もいるはずです。)

②は、依頼者やその関係者が、全額を用意できるかどうかが、弁護活動のポイントになります。

③は、①②ほど被害回復の効果があるとは言えません。しかし、自分の責任に応じた被害回復をするために、依頼者側でできることは全てやった状況を作ることはできます。これは、被害回復に努めたという点で、相応の評価をしてもらえるはずです。

 

今回の持続化給付金詐欺における弁護活動

 

弊所の弁護士が担当したのは、捜査段階の事件でした。

事案としては、共犯者が複数いる中で最も下の役割を担ったうえで、報酬も一部しか受け取っていない事案でした。

 

まずは、コールセンターに問い合わせて、返還手続と、返還に要する期間を聴取しました。

次に、返還資金の工面ですが、依頼者やご家族と相談を重ねて、依頼者のみで全額を用意することができました。そのため、上記の②の方法をとることにして、依頼者が準備した全額を、弁護人が預かりました。

その後、コールセンターに連絡をし、申請情報と返還理由を説明の上、返還の申込みを完了しました。

これと並行して、コールセンターで聞き取った内容、返還資金を工面できた経緯、弁護人の口座入金歴、コールセンターへの電話で申込みを完了したということを、報告書として証拠化しました。

検察官とは何度か連絡をとり、被害弁償の経過を随時説明しました。最終的に、申込みを完了したとの報告書などの証拠と一緒に、起訴すべきではないという意見書を検察官に送りました。

 

その結果、処分保留釈放の判断を得ることができました。これは返還の申込みから返還までには、約1ヶ月前後かかることが理由で、返還が完了すれば、高い確率で起訴猶予(今回は裁判にしない)の判断がなされると考えられます。

 

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