1 証拠による事実認定
刑事裁判は,証拠によって事実を認定して有罪,無罪を判断することになります。
刑事裁判での証拠には,証人尋問を行う証人や,書類(書証),証拠物,鑑定,検証などがあります。
犯罪事実が疑われるとき,通常は警察が捜査をして証拠を集め,検察官に送致し起訴後は検察官の手元にあります。
刑事裁判は検察官が有罪の立証責任を負っているため,まずは検察官が有罪を立証するための証拠を裁判所に請求します。
弁護人は,検察官の請求した証拠を検討し,反証していくことになりますが,検察官は被告人に有利な証拠を当然には請求しません。弁護側は独自に収集する必要があります。
2 検察官に対する証拠開示
弁護側の証拠収集で,もっとも基本的なものは検察官に対する証拠の開示です。
警察,検察が収集した証拠の中に,弁護側に有利なものが埋もれている可能性もあり,検察官の手持ち証拠の徹底した証拠開示がまずは重要になります。
この証拠開示が権利として認められているのが,公判前整理手続です。
公判前整理手続に付されると,公判の前に検察官手持ち証拠の一覧を入手することができ,検察官が証拠の開示に応じない場合には,裁判所に証拠開示命令を申し立てることができます。
従って,特に争いのある否認事件では,公判前整理手続に付すことが必須といってもよいでしょう。
3 弁護士法23条照会
弁護士は警察官と違って強制的に証拠を収集することはできません。
警察,検察は,令状を取得して強制的に必要な証拠を押収することができますが,弁護人にはできません。
その中で,弁護士法23条の2は,弁護士の請求によって弁護士が各種団体に照会を行うことを定めており,基本的には回答義務があるとされています。
これを有効活用することも弁護実践ではよくあることです。
弁護士法第23条の2
1 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
4 裁判所,検察官を通じた証拠収集
弁護人が独自には入手が困難な証拠などは,裁判所に対する公務所等照会を申し立てたり,検察官に証拠収集を要請して取得してもらう,ということもあります。
もちろんその結果は検察官,裁判官にも知られることになりますから,それを前提としなければなりません。
5 その他の証拠収集
その他にも,情報公開請求や,本人を代理しての個人情報の取得などもあり得ます。
もちろん,弁護人が直接聞き込みや現場見分などをして証人や証拠を発見することもあります。
あるいは,専門家に鑑定を依頼することもあるでしょう。
警察のように多くの人員を使うことのできない弁護人にはハンデがありますが,そのような地道な弁護活動が功を奏する場合も決して少なくありません。