刑事弁護コラム
第一回公判期日前の証人尋問の注意点
第一回公判期日前の証人尋問とは
公判期日に行われる証拠調べとして、証人尋問が行われます。被告人も出頭し、公開の法廷で証人に対し検察官や弁護人が尋問します。
ところが刑事訴訟法は、第一回公判期日より前に、つまり公判手続が始まる前に、証人尋問を行うことを認めています。刑事訴訟法226条、227条が定める、第一回公判期日前の証人尋問がこれです。
226条は、犯罪の捜査に欠くことができない知識を有すると明らかに認められる者が、捜査機関による取調べを拒んだ場合に証人尋問ができるとします。227条は、取調べでは任意に供述した(つまり取調べに応じて話をしていた)者が、公判期日では前にした供述と異なる供述をするおそれがあり、かつ、その者の供述が犯罪の証明に欠くことができない場合に、証人尋問ができるとします。
実務上特に問題になることが多いのが、227条のケースです。例えば被害者や重要な証言をすることが期待されている共犯者が、公判廷での証言を拒んだり、出廷しないことを予め明言している場合なども該当すると判断されることがあります。
この第一回公判期日前の証人尋問は、非公開の法廷で行われます。そして、被告人と弁護人の立会権がありません。刑事訴訟法は、「捜査に支障を生ずる虞(おそれ)がないと認めるとき」は、被告人、被疑者、弁護人を「立ち会わせることができる」としています。つまり裁判所の裁量次第で、立会が認められないこともあります。弁護人のみの立会が認められ、被告人本人が立ち会えないということも珍しくありません。立会を許された弁護人は、通常の公判廷での尋問と同様に、証人に対して反対尋問を行うことができます。ただし、証人尋問調書を謄写できない等の違いがあります。
弁護活動の留意点
被告人不在の場で、しかも十分な証拠の開示を受けられない段階で証人尋問を行うことは、証人の一方的な証言を許す機会にもなりかねず、被告人にとって極めて大きな不利益を招きます。事案にもよりますが、弁護人としては上記の証人尋問を満たす要件が認められるかについて厳しく精査し、反対意見を積極的にのべるべきです。もっとも、検察官の意見書や請求書を謄写することもできず、的確な反論が難しいケースも少なくありません。
第一回公判期日前に証人尋問が実施されることとなった場合は、同尋問での証言が、公判調書という形式で、その後の公判で証拠採用されることを見越して、尋問をする必要があります。尋問調書を読むだけで、裁判官、裁判員が、弁護人の尋問の意味や証人の信用性をなるべく的確に判断できるよう、質問の内容や訊き方に配慮する必要があります。
介護殺人の難しさ
介護の末に要介護者を殺害してしまった,として刑事事件に問われることは少なくありません。
心身の障害に苦しみ,自ら殺害を依頼するケースもあれば(嘱託殺人罪),介護者が限界に達して依頼なく殺害してしまうケースもあります(通常の殺人罪)。
ただし,介護殺人と一口にいっても,介護の程度や期間,事件の動機などによって様々です。
生活に苦しむ要介護者を楽にしてあげたい,という動機なのか,単に介護を負担に思い自分が遊びたいという動機なのか。
周囲への助けを求めたか,利用できるサービス等があったかなども量刑に影響します。
また,介護者自身がうつ病等患っているケースも珍しくありません。
このように介護殺人にも様々な事情があり,量刑もかなり幅が広くなります。
下は殺人既遂でも執行猶予が付くこともあれば,懲役10年を超えることもあります。
弁護活動にあたっても,長年の介護の実態をできる限り把握する必要があり,大変な事件類型の1つです。
なにより,本人自身が,自責の念に駆られている場合も多く,あるいは,心中を企図したケースなどでは,自殺念慮が続いている人もいます。
弁護人は,本人に寄り添いながら,本人が尽くしてきた介護の実態を伝え,その苦しみを裁判官,裁判員に理解してもらう必要があるのです。
通常刑事裁判 第1回公判に向けて弁護の裁判準備
裁判員裁判でない通常の刑事裁判は,起訴がなされてから1,2か月ほどで第1回公判が行われるのが通常です。
第1回公判では,起訴状が読み上げられ,裁判官から被告人,弁護人に対してそれぞれ,起訴状の内容に間違いがあるか意見を聞かれます。
その後,検察官が証拠によって証明しようとする事実について述べる冒頭陳述を行い,証拠の取調べを請求します。 (さらに…)
尋問する証人と会うことの重要性
証人尋問は準備が重要
刑事事件の裁判では,証人の尋問がよく行われます。
証人の尋問では,検察官や弁護士が,法廷で証人に質問をして,事件について答えてもらいます。そして,証人が話したことが,そのまま証拠となります。
法務・検察行政刷新会議
法務・検察行政刷新会議
カルロス・ゴーン氏の海外逃亡及び黒川元検事長の勤務延長問題を契機として、法務省内に法務・検察行政刷新会議が設置され、令和2年12月24日で会議を閉会しました。 (さらに…)
保釈中の旅行について
保釈の条件
保釈が許可される場合、ほとんどのケースで「海外旅行又は3日以上の旅行をする場合には、前もって、裁判所に申し出て、許可を受けなければならない」といった、旅行に関する指定条件が付されます。 (さらに…)
供述の迫真性,具体性の危険性
迫真的な供述は信用できるか
刑事裁判で事実が争われると,証人尋問や被告人質問が行われます。 (さらに…)
捜査段階における証拠把握
捜査機関による証拠収集
捜査段階において,勾留といった身体拘束がなされるかどうかや,起訴されて刑事裁判を受けることになるかどうかは,警察,検察が収集した証拠に基づいて判断されます。
身体拘束がなされないようにするため,起訴されないように活動するためには,弁護人において,警察,検察が収集している証拠内容を把握することが重要といえます。
しかし,捜査段階において,警察,検察が収集した証拠を弁護人が直接閲覧したりして確認することはできません。 (さらに…)
弁護人による控訴申立と取り下げ
第1審の判決が有罪判決で不服がある場合,被告人は判決の翌日から14日以内に控訴申立をすることができます。 (さらに…)
第一審実刑判決後の保釈請求
刑事裁判の第一審で保釈されていても実刑判決が言い渡された場合,再び拘置所等に収監されて勾留されます。
保釈が認められるかどうかの判断では,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるかどうかが問題となります。
実刑判決が言い渡された場合,実刑で服役することを免れようとするとして逃亡のおそれが高くなると一般的に考えられており,この点から第一審の場合より保釈が認められにくいと考えられます。 (さらに…)
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