1 強盗致傷罪は裁判員裁判対象事件
強盗致傷罪とは,強盗という犯罪を起こし,かつ被害者や関係者に傷害を負わせた場合に成立する犯罪です。
強盗罪とは,暴行や脅迫をして,他人の物を奪うもので,懲役5年以上の有期懲役と定められており,さらに強盗犯が怪我を負わせたときは,懲役6年以上から無期懲役まで刑が定められています。
1件の強盗であれば有期懲役の上限は20年です(複数事件を起こせば有期懲役の上限は30年まで科されます)。
そして,強盗致傷罪は,法定刑に無期懲役が定められていますので,起訴された場合は,市民が参加する裁判員裁判で審理されることになります。
刑法
第236条1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
第240条
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
2 窃盗でも強盗致傷
強盗のイメージは,暴力を振るって物を奪う,というものと思いますが,刑法には事後強盗という犯罪類型も定められています。
事後強盗とは,窃盗をした人が,取り返しを防いだり,逃走するためなどに暴力を振るった場合,それも強盗とする,という規定です。
刑法第238条
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
そして,この事後の暴力の際に怪我を負わせると強盗致傷罪になってしまうのです。
3 強盗と思わなかったようなケース
事件を担当していると,最近ネット上で人を募って犯罪を行うというケースが増えています。
ネット上での募集では,必ずしも計画者が想定している実態を明らかにせず,現場についたら危険な犯罪だと分かった,とか,あくまで盗みに入るという計画だと思っていたのに実際には強盗だった,というようなケースです。
裁判で争いになることとして,現場に行かない道具調達役や情報伝達役,あるいは見張り役などが,強盗と思っていなかったような場合で,実行犯が実際には現場で強盗をし怪我も追わせてしまった,というようなケースで,現場に行かなかった者に成立する犯罪が窃盗なのか強盗致傷なのか,というものです。
窃盗と強盗致傷では,科される量刑に大きな開きがあります。
もちろん,現場で強盗が行われると知っていれば,実際に現場に行かなくても,強盗致傷の共犯として責任を負わなければなりません。
ところが,窃盗と聞いてた場合には,窃盗の限度で犯罪が成立するのか,強盗致傷が成立するのかが,問題になるのです。
窃盗と聞いてたとしても,例えば有人の店舗に進入する場合には、店員とトラブルになり暴力行為に発展するかもしれませんし,無人の場合でも通行人等に発見された場合に備えて念のため刃物等を携帯した場合など,強盗に発展することを容易に想定しえたといえる場合は,強盗致傷罪が成立する可能性も出てきてしまうのです。
4 強盗致傷罪の量刑
強盗致傷罪は,懲役6年以上~と定められていますが,刑法では情状に特に酌量すべき事情がある場合などに刑を減軽することができ,その場合懲役3年以上の刑期となります。
執行猶予が懲役3年以下の場合に付すことができるので,ギリギリ付すことが可能になります。
しかし,強盗致傷で執行猶予が付されるのは,最も軽い部類に限られており,関与の態様,怪我の程度,被害金額などが軽い部類で,かつ,示談が成立するなどの事情がある場合です。
他方で,複数件の強盗致傷を行った場合,懲役10年前後となることも珍しくありませんし,怪我の程度によっては,15~20年という場合もあります。