合意書面の活用

供述調書や報告書の弊害

証拠の多くは,書類です。供述調書や捜査官が作った報告書など,多数の書類が,どの事件でも作成されます。会社が関係している事件や,多数の事件関係者がいる事件などでは,その量は膨大なものになります。そして,検察官がその中から選別し,取調べを請求して法廷に出してくる証拠の点数も,100点を超えるということも決して少なくありません。

 

多数の調書が請求されているケースであっても,基本的には調書に同意せず,証人尋問をすることが重要です。供述調書や報告書は,どのように作られていても,捜査機関の見方を反映するものにならざるを得ず,また弁護人に有利な細かな情報がそぎ落とされていたり,ニュアンスが読み取れないということも多々あるからです。ただ,弁護人の中には,あまりに多数の証人を呼ぶことを嫌い,争いのない点については,多くの証拠書類の取調べについて,同意してしまうケースもあるようです。事案によりけりですが,そのような判断をした場合,実際には依頼者にとって不利に働き得る供述が,調書などに含まれているにもかかわらず,それが漫然と裁判所に伝わり,結果として裁判所の判断がゆがめられるという事態も起こり得ます。

合意書面の活用

争いのない点についても,捜査機関の調書に漫然と同意するのではなく,真に争いのない部分のみからなる合意書面(検察官と弁護人が内容について相互にすり合わせて作成する書面)が取調べられるのであれば,このような事態は回避できます。裁判所にとっても,争いのない点については,当事者双方が整理しコンパクトにまとめた合意書面を取調べるだけで済みますので,その分の労力や時間を,真に争いのある点についての尋問や証拠調べに割くことができます。

 このような証拠調べの在り方は,裁判員裁判では,捜査機関が「統合捜査報告書」というまとめの書類を作成するという形で,一部実現されています(この場合は検察官のみが証拠調べ請求をし,弁護人がそれに対する同意不同意を検討するという形になります)。しかし,裁判員裁判以外の裁判でも広く用いられるべきアプローチですし,実際に裁判官のみの裁判でも,合意書面が作成される事案は,少しずつですが増えてきています。検察庁の事務的負担を軽減するために弁護人も積極的に証拠の整理や書面の作成に協力して,この方向性を推し進めるべきであると考えます。

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