1 裁判員裁判の特徴
裁判員裁判とは、一般市民からランダムに選ばれる裁判員が参加する裁判です。裁判官3人とともに、選ばれた一般市民6人が裁判に加わります。裁判員は、有罪か無罪かという認定と、有罪の場合に刑をどれだけにするかという量刑の判断を、それぞれ行います。
裁判員裁判は、法律に定められた刑に無期懲役や死刑の刑がある犯罪など、一定の重大事件に限って行われます。裁判員裁判の対象となる事件が起訴されると、実際に裁判がすぐ開かれるわけではなく、「公判前整理手続」という裁判の準備の手続が行われます。
「公判前整理手続」においては、裁判において当事者がどのような主張をするのか、裁判の争点は何なのか、どの証拠を採用するのかなどの事項を、裁判官・検察官・弁護人の三者で話し合います。
「公判前整理手続」が終わると、まもなく裁判が正式に開廷します。裁判は、少ないものでは数日、多いものでは1ヶ月以上連続して行われます。
裁判後は、裁判官3人と裁判員6人が評議を行い、判決が下されます。
2 公判前整理手続の重要性
「公判前整理手続」では、当事者がどのような主張をするのか、裁判でどのような証拠を採用するのかを決め、裁判の準備をします。裁判官・検察官・弁護人の三者間で協議をし、綿密な予定を決めるのが通常となっています。
ここで決められた以外の証拠を、裁判になって突然提出することは原則として認められていません。
したがって、「公判前整理手続」においては、裁判前に、いかに裁判の中身を見通すことができるかが重要になります。裁判の中身を見通して、採用される証拠が弁護側に有利なものになるよう、検察官の証拠に対して意見を申し立てたり、検察官や裁判官との交渉・説得を行ったりする必要があるのです。
これには、「公判前整理手続」の経験と、裁判を見通す能力が要求されます。
3 一般市民の共感を得る法廷弁護技術
裁判員裁判では、一般市民の方を含めた9人で評議を行い、判決が決まります。
したがって、一般市民にも共感してもらえる弁護方針を立てる必要があります。
そして、その弁護方針に基づいた法廷での活動は、一般市民にも理解できる言葉で提供されなければなりません。
一般市民に弁護側の主張を効果的に伝える技術は、裁判員裁判においてなくてはならない技術です。裁判員裁判の弁護活動に必要な基本的な姿勢を、少し紹介したいと思います。
―市民をその場で説得する
裁判は、双方が、互いの主張の正当性を裁判官・裁判員に訴えるプロセスです。弁護側の主張が正しいことを裁判官・裁判員に訴え、理解させ、共感してもらわなければなりません。
裁判は集中して連日行われます。その短い間に、市民である裁判員に、どのような事件で、証拠をどのように検討すればよいか、なぜ弁護側の主張が正しいのか、をその場で説得しなければなりません。
裁判官・裁判員を説得するあらゆる手段を尽くさなければなりません。
―裁判員裁判こそ、法律の深い理解が必要である
裁判員裁判も、もちろん法律に則って行われます。判例(過去になされた裁判で判断された事項)も重要な意味を持ちます。
われわれ弁護人は、このような法律や判例などの専門的な事項を、一般市民である裁判員にもわかるように説明しなければなりません。法律や判例などの専門的事項を一般の方にもわかりやすく説明するためには、法律や判例などについて、正確かつ深い理解が要求されます。ときには、法律が制定された理由や、趣旨に立ち返って説明しなければならない場合もあるでしょう。
裁判員裁判こそ、弁護人が法律や判例を深く、正しく理解していることが重要になります。
ここにあげたのは、裁判員裁判の弁護における基本的な姿勢の一例です。裁判員裁判の弁護に必要な技術は、ここに上げられないほど多岐にわたります。
裁判員裁判では、法律や判例の深い理解に基づき、プレゼンテーション技術を駆使して、裁判員にこちらの主張を受け入れられるような活動をすることが不可欠です。
4 裁判での弁護活動
⑴ 量刑事件
裁判の対象になった犯罪を起こしたことが間違いのない事件では、どのような刑が適切かという点が最大の焦点になります。
裁判員は刑を決めますが、評議は基本的に秘密となっています。しかし、評議において一般的にどのように刑を決めていくかを知ることはできます。
まずは、量刑の考え方を理解し、評議においてどのように刑を決めるのかを理解することが重要です。
▼量刑の考え方を理解する
刑罰の本質は、「やったことの責任をとる」です。基本的には、行った犯罪内容(たとえば、暴行の悪質さ)で処罰の大枠が決まり、その他の要素(たとえば、反省しているかどうか)は、大枠の中での調整要素となります。近年、特に裁判員裁判では、取り立ててこのような考え方が意識されています。
また、近時、最高裁判所は、原則として、過去の事件における量刑の傾向を目安に刑を定めなければならないという趣旨の判断を下しました(最高裁判所平成26年7月24日判決)。
過去の量刑傾向も参照しながら、今問題になっている事件がどのような位置づけになるのかという視点を常に持たなければなりません。
▼量刑の考え方を意識した効果的な活動を
量刑の考え方を理解した後は、それに従った弁護方針を立て、弁護活動を実践しなければなりません。依頼人の「やったこと」を無視して、人柄や反省をアピールしても、あまり効果はありません。犯罪行為の内容で、弁護人が弁護できるところはないか、まずは考えるべきです。「やったこと」が悪質だと検察官が主張するような事件でも、そうではない視点を弁護人側が提供する発想が不可欠です。
もちろん、事件によっては、人柄や反省など、犯罪行為以外の内容に着目して欲しい事件もあります。弁護人が訴えたいポイントが犯罪行為の内容以外のところにある場合もあります。その場合でも、漫然と主張しては逆効果です。量刑の考え方を意識した上で、適切な位置づけで主張をする必要があります。
このように、自白事件では、量刑の基本的な考え方を理解し、どのような評議が行われるかを想定した上で、弁護人が訴えたいポイントを適切に訴えなければならないのです。
⑵ 否認事件
「否認事件」とは、裁判の対象となった犯罪事実を争う事件です。無罪を主張する場合のほか、裁判になった事実の一部を争う場合もこれに含まれます。
裁判員裁判の否認事件における弁護活動は、公判前整理手続での戦略を正しく実践し、一般市民に共感を得られるような活動をすることに気をつければ、裁判での活動は通常の否認事件と大きく変わりません。
否認事件の裁判の戦い方については、否認事件の戦い方をご覧下さい。