刑事裁判は,被告人・弁護人側と検察側が裁判で主張しあうものです。弁護人と検察官は公判では対等な当事者であり,双方の主張を聞き,双方が提出する証拠を吟味して,裁判官が(裁判員裁判であれば市民である裁判員も一緒に)判断するのが刑事裁判です。
弁護士と検察官の力の差
このように刑事裁判では,弁護士と検察官は一方当事者にすぎませんが,実際にはできることや与えられている権限に大きな差があります。
検察官は国家権力そのものです。税金で給与をもらい,国家権力を背景に強制的に証拠を押収し,関係者から話を聞くことができます。
また,警察という強大な組織に指示して,捜査をすることができます。
他方で,弁護士は単なる一私人でしかありません。強制的に調査をする権限もなければ,自分の体以外に,動いてくれるスタッフはいません。そして弁護士は私人ですから,事務所を経営し,事務員の給与を払わなければなりません。
お金がある依頼人であれば,弁護士を何人も雇ったり,補助者を動員することができるかもしれませんが,国選弁護などで払われる報酬は極めて低額で,十分な弁護活動ができない事態も生じます。たとえば,警察が行った科学的な鑑定に問題があると考え,弁護側で新たに鑑定をしようと専門家に依頼しようと思っても,その鑑定費用はどこからも出ません。被告人が負担できなければ,弁護士の持出になるか,あるいは鑑定を諦めるかという選択肢になります。
お金がある人が無罪になり,お金の無い人が有罪になるのはあまりに不正義であり,弁護活動に必要な費用は,刑事裁判という国の権力作用に関わるものですから,本来国家が負担すべきです。不十分な弁護活動の上に成り立つ刑事裁判は,適正な手続保障という観点からも問題があるのです。
当事務所の弁護士は,そのような圧倒的な力の差の中でも創意工夫をしてできる限りの弁護活動を心がけています。もちろん国選弁護にも力を入れています。