刑事裁判で,被告側が故意がないとして無罪を主張した,と報道がされることがあります。
故意がないという主張
例えば,殺人罪で殺意がなかった(殺人の故意を争うということで,傷害致死などの部うつの犯罪が成立する可能性もあります),性犯罪などで同意があると思った,などというようにです。
故意がなくても,結果は発生してしまっているため,この主張だけをみると責任を取らずに逃げようとしていると思われるかもしれません。
しかし,刑事裁判における犯罪が成立するというためには原則として,故意がなければなりません。
例えば,猟師が猟をしているときに,動物が動いたと思って発砲したら人間であったという場合,人を殺すという故意があり,殺人罪に問う事はできません。
同じく,店舗などで自分の傘を傘立てに入れて,帰りに自分の傘とよく似た他人の傘を自分の物だと信じて持って帰ってしまった場合も,窃盗罪になりません。
このように,結果的に自分の行為により人が死亡した,結果的に他人の物を盗んだ,という状態が発生していていも,故意がなければ犯罪は成立しません。
刑事裁判のルール
犯罪とは,刑法などで,~をしてはならない,違反したものは~年に処する,というように禁止のルールと罰則が定められたものです。
しかし,故意がない場合は,自分の行為が犯罪であるからしてはならないと考える前提となる事実関係を認識していないため,犯罪とはいえないということです。
もちろん,被害者の側からすれば結果は発生していますので,民事賠償を求めることはできますし,一定の犯罪の場合には,故意がなくても過失があれば過失犯として処罰されることがあります(過失致死罪など)。
故意がないというと,犯罪に当たる事は認識していたのに許されると思ったというようにイメージされるかもしれませんが,それは故意があるとされます。
故意がないとは,犯罪に当たる事実を認識していない状態なのです。
ただし,事実の認識はあくまで主観的な認識の問題なので,故意がないと主張する人について,それが本当にないのか,後からウソを言っているのかの事実認定を事後的にすることはとても困難なのです。