「公判前整理手続」の実態と活用についてご説明します。
公判前整理手続とは
公判前整理手続とは、第1回の公判期日より前に,裁判所,検察官, 弁護人が,争点を整理して明確にし,証拠を厳選し,審理計画を立てることを目的とする手続です。
裁判員裁判の対象となる事件については、すべてについて公判前整理手続が行われます。
そして、裁判員裁判以外では、原則として公判前整理手続きは行われません。
しかし、裁判員裁判の対象ではない事件以外でも、公判前整理手続は行われることがあります。
弁護人は、公判前整理手続に付すよう裁判所に請求することができますし、裁判所がそれを認めれば、裁判員裁判対象事件でなくとも、公判前整理手続が行われるのです。
特に事実を争う否認事件等では、裁判員裁判対象事件でなくても、積極的に公判前整理手続きを活用すべきです。
刑事事件を取り扱っている弁護士の中にも、裁判員裁判は全くやらないという方は少なくありません。
しかし、「手続きは全く違うから裁判員裁判の経験がなくても全く関係ない」とはいえません。
どんなことを行うか
公判前整理手続きは、裁判所・検察官・弁護人が集まって(時には依頼者も立ち会って)、証拠や主張の整理を行います。
ここでは、漫然と打ち合わせをすることはあってはなりません。
交渉が必要となることもあります。
裁判官は全員、裁判員裁判の経験があるのが通常です。
裁判員裁判対象ではない事件で公判前整理手続に出てくる裁判官も、当然、裁判員裁判での公判前整理手続の運用を熟知していると考えなければなりません。
検察官も同様です。
弁護人が裁判員裁判で公判前整理手続の運用を知らないことは、弁護人や依頼者にとって大きなハンデとなりかねません。
では、具体的に、どのようなことを行うのでしょうか。
まず、公判前整理手続では,検察官と弁護人がそれぞれ、事件に関する主張をします。そして、その主張を整理し、どこに争いがあるのか(争点)を明確化します。
また、この公判前整理手続の中で、弁護人として一番重要な責務は、証拠開示請求といってよいでしょう。
検察官が当初弁護人に開示する証拠は、検察官が持っているすべての証拠ではありません。
開示されていない証拠の中に、弁護人にとって有利な証拠が含まれていることはたくさんあります。
そうした証拠を開示するよう求めていくことになります。
刑事訴訟法上の一定の類型に該当するものについては、検察官には開示義務が生じます。
類型証拠開示と主張関連証拠開示、といいます。
証拠開示には、弁護人の力量が問われます。
被告人の供述調書や証人候補者の供述調書等のように分かりやすいものだけを開示請求するのではなく、経験に基づき、依頼者にとって必要になる証拠を獲得することは1つの技術です。
そして、証拠開示に関連して、公判前整理手続に付されないと手に入れられないものは、証拠のリストです。
公判前整理手続になれば、検察官が持っている証拠のリストを開示するよう求めることができます。
これにより、証拠開示請求をする重要な手がかりを得られることになります。
そのような手段をよく知らなければ、本来得られたはずの武器を得ることができません。
さらに、裁判所で実際に取り調べる証拠を何にするか、ということも整理することになります。
検察官が、裁判所で取調べてほしいという証拠について、弁護人は同意・不同意等の意見を述べます。
もちろん、弁護人が請求する証拠についても、検察官は意見を言います。
そうして、裁判所がどの証拠を採用するかを決定することになります。
ここでも、漫然と同意の意見を述べないことが大切です。
そして、公判の日程として、紙の証拠をどのタイミングでどのくらいの時間で調べるのか、どの証人をいつ尋問し、どのくらいの時間をかけるのか、等のスケジュールも決めることになります。
このように、公判前整理手続では、戦略的にいろんなことを決めていく技術が必要です。
実施状況の実態は
さいごに公判前整理手続に関する司法統計をご紹介します。
以下は平成31年度/令和元年度の公判前整理手続の実施状況等についての統計ですので、興味のある方は参照なさってください。
- 通常第一審事件の終局総人員 公判前整理手続及び期日間整理手続の実施状況別合議・単独,自白の程度別 全地方・簡易裁判所
- 公判前整理手続に付された通常第一審事件の平均審理期間及び平均開廷回数
- 通常第一審事件の終局人員 公判前整理手続(証拠方法別)及び期日間整理手続に付された人員 地方裁判所管内全地方裁判所別
- 通常第一審事件の終局人員 公判前整理手続(証拠方法別)及び期日間整理手続に付された人員罪名別 全地方裁判所
ご自身やご家族の事件を弁護士に依頼する際には、公判前整理手続きの経験が豊富な弁護士かどうかもぜひご確認ください。