1 刑事裁判における控訴審
第1審の判決に不服がある場合には,控訴申立をすることができます。
控訴申立をすると,第1審の訴訟記録が地方裁判所から高等裁判所に送付され,事件が高裁に係属します。
高裁は,事件が係属すると,私選弁護人がいない場合には国選弁護人を選任し,控訴趣意書の提出期限を定めます。
刑事訴訟法第376条
控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。
控訴趣意書とは,第1審判決が誤っており,控訴審の判断を受けたい不服がある点を記載した書面です。
弁護人が作成して提出するのが基本ですが,被告人自身も作成して提出することができます。
2 控訴理由とは
控訴趣意書に書くべき控訴理由は,法律により定められています。
控訴理由には絶対的控訴理由(刑訴法377,378条)と相対的控訴理由(379,380,382条)があるとされており,前者はその事由が認められれば直ちに破棄されるもの,後者はその事由があることを前提に判決に影響があることが必要です。
絶対控訴理由としては,公開原則違反,管轄違反,不告不理(訴追を受けていない事件について判決をする)など,第1審判決の過誤が著しい場合で,このような事由で高裁が破棄することは珍しいでしょう。
相対的控訴理由としては,訴訟手続の法令違反(379条),量刑不当(380条),事実誤認(382条)があります。
第379条
前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第380条
法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。
第382条
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
3 控訴趣意書が控訴審を左右する
控訴審の審理は,第1審の審理を前提にします。
証拠はもちろんのこと,証人尋問の結果も尋問調書が作成され引き継がれます。
第1審の裁判官が判決を書くために資料にした証拠を全て検討し,その上で第1審判決が正しいか,誤っているかを判断します。
従って,控訴趣意書において第1審判決のどこが,どのような理由で誤っているかを説得的に述べることが,控訴審の審理の出発点であり,最も大事な活動です。
控訴審で問題になるのはほとんどが相対的控訴理由としての,訴訟手続の法令違反,量刑不当,事実誤認ですが,それぞれ,どのような点で誤りがあり,その誤りが判決結果にどう影響するのかを第1審の証拠を評価して論じる必要があります。
4 新しい証拠は?
控訴趣意書を作成するときに悩ましいのは,否認事件などで第1審で証拠になっていなかった新しい証拠をもとにして作成していいかどうかです。
基本的に控訴審は,審理をやり直すのではなく,第1審の証拠から第1審の判決結果になったことについて,その論理構造や常識から誤りがないかどうかを審査します。
従って,第1審で証拠になっていなかった新たな証拠をもとに主張するのではなく,第1審の証拠の評価が間違っていた,と主張を展開するのが基本になります。
もちろん,新たな証拠が重大なものであり,第1審判決の結果が誤りであることが明確になるような場合に,控訴趣意書に引用することもあります。