おとり捜査

 おとり捜査という概念があります。
おとり捜査とは 

 法律で決まっているわけではありませんが,おとり捜査は,「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの」であるとされています(最決平成16年7月12日刑集58巻5号333頁)。

おとり捜査の問題点

 おとり捜査の問題としては,捜査を受ける者の人格的自立を害する,捜査の公正さを害する,本来犯罪を抑止する責務を負う国家が犯罪を作出することの矛盾などがいわれ,こうした問題が大きいときは,違法な捜査になり得るものと考えられます。実際に,こうした捜査で立件された事件が無罪になったケースもあります。
 同最高裁決定は,おとり捜査が違法となるかどうかが争われた事例ですが「少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべき」としています。
 同最高裁決定は,おとり捜査が適法となる必要条件を一般的に示したものではありません。これらの要件が一つでも欠けた場合に,おとり捜査が適法となるのか違法となるのかは判例によっても明らかではなく,事例判断となるものと思われます。実際におとり捜査が行われた事件の弁護活動でおとり捜査の違法性を争っていくのであれば,これらの要件を意識しながら,おとり捜査が違法であることを主張すべきです。また,「通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難」「機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者」というのは評価を含んだ概念ですので,この最高裁決定との事案の違い等に着目し,当該事案ごとに特異な事情を,おとり捜査が違法とされる根拠に関連付けながら,説得的な主張を展開することが必要です。 また,おとり捜査が行われる事件では,捜査官や捜査協力者に対する反対尋問など,高度な法廷弁護活動が要求される場面が多いでしょう。
 このような事件は複雑な事件であり,技術を持った弁護人の選任が望まれます。

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