司法取引の危険性

 国会で,刑事訴訟法を一部改正する法律が衆議院で可決されました。改正内容は多岐にわたりますが,大きな点の1つに司法取引の導入があります。

日本の司法取引とは

 改正法で予定されている司法取引は,他人の罪を認める代わりに自分の刑を免除したり軽くしたりすることを内容とする取引を被疑者と警察・検察との間で交わす,というものです。組織犯罪などで上位者を検挙するために捜査機関の武器となると考えられています。
 しかしながら,刑事弁護に携わる身としてはこの司法取引の制度には大きな危険が孕んでいると感じます。

司法取引に含まれる危険

 人は誰しも弱い一面を持っています。逮捕され,毎日毎日厳しい取り調べを受ける中で,自分の人生はどうなってしまうだろう,助かりたい,少しでも刑を軽くしたいという心情になります。そこへ,別の人間が関与したことを話せば軽くしてやるといわれたとき,無実の第三者を巻き込んでしまうことがあるのです。
 これまで起きた多数のえん罪事件誤判事件の中には,共犯者の自白によるもの-すなわち無関係の第三者に責任を転嫁する-が実際にありました。
 裁判例でも共犯者の自白は慎重に判断しなければならないと重ねて警告されてきました。

 司法取引は,このように他人を売ることに法的にお墨付きを与えることになります。嘘の取引をしたことがあとで発覚したら罰則もありますので,ひとたび嘘をついた人があとで本当のことを話すことも難しくなります。

 このように司法取引は,無関係の第三者が巻き込まれるえん罪の危険性を持つ諸刃の制度といえます。
 少なくとも取引の過程を可視化(取調べの録画・録音)することで,取引の経過を検証できるようにしておくことが望まれます。

 

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