どのような証拠意見を述べるか
刑事裁判において,裁判官が取り調べる証拠には証拠能力がある必要があります。
また,不必要な証拠は裁判で取り調べられるべきではありません。
検察官が証拠として取調べることを請求する証拠に対しては,弁護人に意見が求められます。
犯罪の成立や被害者の述べる被害内容に争いがなく,証拠の内容自体に争いがない。
そうであっても,安易に供述調書に同意したり,証拠物の取調べや証人尋問の実施に反対しなかったりすべきではありません。
証拠意見の実例―放火未遂事件
具体例として,犯罪の成立自体に争いがない現住建造物の放火未遂事件において,検察官は近隣の住民の方々の供述調書を証拠として取調べるよう請求したとします。
内容は,すぐ近所で放火事件が起きて怖い思いをしたり,煙などによる被害を被ったりしたとするもので,その被害内容自体には争いないものです。
放火の罪は,公共の危険に対する罪と言われます。
検察官において,このような近隣の方々の被害や処罰感情を内容とする供述調書の証拠調べ請求や,証人請求も行われることも多いものといえます。
しかし,放火自体は未遂にとどまったにもかかわらず,近隣住民の方々の供述内容まで証拠とすることは,不必要であるといえます。
また,現住建造物の放火未遂事件は,裁判員裁判において審理される事件です。
実際には未遂にとどまっているにもかかわらず,近隣住民の方々の被害や処罰感情を内容とする供述を取調べることで,既遂の放火の罪を犯したのと同じというような不当な印象を与え,不当に重く処罰される危険性が考えられます。
供述内容自体に争いがないとしても,判断に不当な影響を与えるものとして関連性がない,また必要性もないとして,証拠として採用されないよう活動すべきです。
検察官の証拠調べ請求に対しては,証拠の内容に争いがあるかどうかはもとより,証拠の関連性や必要性なども検討して,安易に証拠として取り調べられることがないよう適切に対応すべきです。